店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 身体、貧困、家族のかたちをめぐる現代的な社会派小説を読みたい時
- 刺さるポイント
- 非正規で働くリキが、生殖医療をめぐる選択へ追い込まれていく
- 向いている人
- 倫理的に割り切れないテーマを、登場人物それぞれの切実さから読みたい人
Reading Notes
読みどころメモ
音声レビューの要点
今日は、桐野夏生さんの『燕は戻ってこない』をご紹介します。
物語の中心にいるのは、北海道から東京へ出てきた二十九歳のリキです。非正規の仕事で暮らしは苦しく、将来への見通しも立たない。そんな彼女は、友人から卵子提供を勧められ、やがて生殖医療をめぐる大きな選択へ巻き込まれていきます。一方で、子どもを望む夫婦や、医療ビジネスに関わる人々も、それぞれの願望と都合を抱えています。誰か一人を悪者にすれば済む話ではないからこそ、物語は息苦しいほど現実的です。
本作は、代理母出産という重い題材を扱いながら、制度や倫理だけを論じる小説ではありません。お金がないこと、若さや身体が値段に変えられていくこと、家族を持つ権利と、他人の身体を利用する欲望が交差すること。そのすべてが、登場人物たちの生活感と結びついて描かれます。リキの選択は自由意志のようにも見えますが、そこへ至るまでの貧困や孤独を考えると、簡単に自由とは言えません。
読みどころは、読者に楽な立場を与えないところです。子どもを望む側にも切実さがあり、引き受ける側にも事情があり、周囲の人々も善意と打算を混ぜながら動きます。誰の言葉も完全には信じきれず、誰の痛みも簡単には否定できない。その複雑さが、現代社会の不均衡を鋭く照らします。
『燕は戻ってこない』は、毎日芸術賞と吉川英治文学賞を受賞し、ドラマ化もされた社会派長編です。身体は誰のものなのか、家族とは何なのか、お金で選択肢が変わる社会をどう見るのか。読み終えたあとも、答えを急がず考え続けたくなる一冊です。
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