店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 表現の自由や同調圧力をめぐる不条理な物語を読みたい時
- 刺さるポイント
- 小説家が謎の施設に収容され、社会に適応した作品を書くよう迫られる
- 向いている人
- ディストピア、文学論、息苦しい社会派サスペンスに惹かれる人
Reading Notes
読みどころメモ
音声レビューの要点
今日は、桐野夏生さんの『日没』をご紹介します。
主人公は、小説家のマッツ夢井です。ある日、彼女のもとへ、文化や文芸の倫理を掲げる組織から出頭を求める通知が届きます。向かった先は、海辺の断崖に建つ療養所のような施設。そこで彼女は、社会に適応した小説を書くよう求められ、外との連絡も自由も少しずつ奪われていきます。物語は、突飛な悪夢のように始まりながら、読むほど現実の息苦しさに近づいてきます。
この作品が怖いのは、暴力が常に大きな音を立てて迫ってくるわけではないところです。施設の人々は、正しさや善意や社会のためという言葉を使いながら、作家の言葉を矯正しようとします。反抗しても、議論しても、相手は聞いているようで聞いていない。いつの間にか、何を書いてよいのか、何を考えてよいのかまで管理されていく感覚が積み重なります。
読みどころは、表現の自由を単なる理念としてではなく、生活や身体の自由と結びついた切実な問題として描く点です。小説を書くとは何か。社会に受け入れられる作品とは何か。誰かを傷つけないためという言葉は、どこから人の沈黙を求める圧力に変わるのか。読み進めるほど、作中の制度が遠い未来の話だと言い切れなくなっていきます。
『日没』は、明るい解決や爽快な反撃を期待する作品ではありません。けれど、だからこそ、言葉を奪われる怖さ、考えることを諦めさせられる怖さが深く残ります。文学を読む意味そのものを問い直したい人に向いている一冊です。
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