店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 一癖ある探偵ものと、技巧的などんでん返しを楽しみたい時
- 刺さるポイント
- 盗聴専門の探偵が追う産業スパイ調査が、殺人事件と登場人物の秘密へつながっていく
- 向いている人
- 軽妙な語り口の裏に、痛みや偏見を抱えた人間ドラマが潜む作品が好きな人
Reading Notes
読みどころメモ
今日は、道尾秀介さんの『片眼の猿』をご紹介します。
主人公は、盗聴を専門にする私立探偵です。楽器メーカーから依頼を受け、ライバル会社に潜む産業スパイを探るうちに、同業者の女性、冬絵と出会います。彼女を仲間に引き入れ、調査はチーム戦のように進んでいきますが、やがて関係者の周囲で殺人事件が起こり、主人公たちは仕事の範囲を越えた謎の中へ巻き込まれていきます。
この作品は、探偵小説らしい軽快さと、道尾秀介さんらしい認識のずれが同居しています。盗聴という職業は、見えないところで他人の声を拾い、断片から真実を組み立てる仕事です。その構造が、物語全体の読み心地にも重なっています。読者もまた、登場人物の会話や態度から相手を判断しようとしますが、その判断が本当に正しいのか、何度も試されることになります。
タイトルにも象徴されるように、ここで描かれるのは、欠けているものを抱えた人たちの物語でもあります。外見、能力、記憶、他人から向けられる視線。登場人物たちはそれぞれ何かを隠し、何かに傷つきながら生きています。ミステリーの仕掛けは、その傷を単なる意外性として消費するのではなく、人が他人をどう見てしまうのかという問題へつながっていきます。
終盤に向けて、何気ない言葉や違和感の置き方が効いてきます。読者が無意識に補っていた前提が崩れる瞬間があり、その反転によって事件の意味だけでなく、登場人物の姿まで変わって見える。『片眼の猿』は、テンポよく読める一方で、読み終えたあとに自分の思い込みまで振り返りたくなる長編ミステリーです。
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