店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 家族という言葉の中にある依存や暴力まで見つめたい時
- 刺さるポイント
- 母と娘の関係に積み重なる閉塞感を、地方の空気と事件の影を通して描き出す
- 向いている人
- 重厚な家族小説、社会問題を扱う物語、苦い読後感のある作品が好きな人
Reading Notes
読みどころメモ
音声レビューの要点
今日は、早見和真さんの『八月の母』をご紹介します。
舞台は、海に面した愛媛の街です。越智エリカは、この場所からいつか必ず出ていきたいと願っています。けれども、スナックを営む母の美智子は、エリカの前に何度も立ちはだかります。親子であることは逃げ場にも支えにもなるはずなのに、この母と娘の関係では、愛情と支配、心配と嫉妬、依存と憎しみがほどけないまま絡み合っています。
物語は、ひとつの悲劇へ向かっていく緊張を抱えながら、母から娘へ、さらにその先へと受け継がれてしまう傷を描きます。貧しさ、地方の閉塞感、女性が生きるうえで背負わされる不自由、家族の中で見えにくくなる暴力。読んでいて息苦しくなる要素が多い作品ですが、その息苦しさこそが、この小説の核心でもあります。
エリカも美智子も、単純に被害者や加害者として整理できる人物ではありません。誰かを愛したいのに、愛し方がわからない。逃げたいのに、逃げる力を奪われている。そんな状態が長く続いたとき、人はどこまで壊れてしまうのかが、冷たい現実感をもって描かれます。
『八月の母』は、読者にやさしい慰めを差し出す作品ではありません。けれども、家族という言葉で隠されがちな痛みを正面から見つめる力があります。重いテーマの小説を通して、人が環境に縛られる怖さと、それでも断ち切ろうとする切実さを考えたい人におすすめしたい一冊です。
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