店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 極限状況で人間関係や共同体が崩れていく物語を読みたい時
- 刺さるポイント
- 孤島に残された一人の女と多数の男たちが、救助のない時間の中で独自の秩序を作り始める
- 向いている人
- サバイバル小説、社会派サスペンス、ブラックユーモアのある群像劇が好きな人
Reading Notes
読みどころメモ
今日は、桐野夏生さんの『東京島』をご紹介します。
物語の舞台は、太平洋のどこかにある無人島です。世界一周の途中で漂着した清子と夫、そこへ流れ着いた若い男たち、さらに別の国から来た人々が加わり、島はいつしか「東京島」と呼ばれるようになります。外の社会から切り離された場所に、三十人以上の男と、ただ一人の女が取り残される。そこから物語は、救助を待つ冒険譚ではなく、人間の欲望と序列がむき出しになる奇妙な共同体の記録へ変わっていきます。
清子は、若く美しいヒロインとして描かれるわけではありません。むしろ、自分勝手で、したたかで、生き延びるためなら平然と態度を変える人物です。けれど、その強さは単純な魅力ではなく、読者を何度も不安にさせます。彼女を特別扱いする男たちも、島の中で秩序を作ろうとする者たちも、少しずつ文明の言葉を失い、滑稽さと暴力を同時に帯びていきます。
読みどころは、極限状態のサバイバルそのものよりも、人が集まると自然に生まれてしまうルール、噂、権力、排除の動きです。島は閉じた場所でありながら、どこか現代社会の縮図のようにも見えます。食べること、眠ること、誰と結びつくか、誰を仲間外れにするか。生きるための判断が、いつの間にか人間の醜さを照らし出していきます。
『東京島』は、谷崎潤一郎賞を受賞した、桐野夏生さんらしい不穏さと力強さを持つ長編です。明るい脱出劇ではありませんが、閉ざされた場所で人間がどこまで変わってしまうのかを、毒のあるユーモアと迫力で味わいたい人に向いています。
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