店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 芸の道に人生を賭ける人物の熱量を味わいたい時
- 刺さるポイント
- 任侠の家に生まれた少年が、歌舞伎の世界で才能と運命に翻弄されながら成長していく
- 向いている人
- 長い時間をかけて人物の変化を追う大河小説や芸道小説が好きな人
Reading Notes
読みどころメモ
今日は、吉田修一さんの長編小説 『国宝 上 青春篇』をご紹介します。
物語は、一九六四年の長崎から始まります。 任侠の家に生まれた立花喜久雄は、抗争の渦の中で父を失い、歌舞伎役者の家へ引き取られます。 血筋から見れば、彼は歌舞伎の世界の外側にいる少年です。 けれど、その美しさと表現への執着は、周囲の大人たちの思惑を越えて、舞台の中心へ彼を押し出していきます。
本作の大きな魅力は、才能を持つ人間がただ成功していく物語ではないところにあります。 喜久雄は、舞台の上では輝きを放ちながらも、自分が本当に居てよい場所なのかという不安を抱え続けます。 芸の家に生まれた俊介との関係も、友情やライバル意識だけでは割り切れません。 血筋、稽古、人気、師弟関係、家族の期待。 そうしたものが絡み合う中で、二人は互いを意識しながら、自分だけの芸を求めていきます。
吉田修一さんの筆は、歌舞伎の知識がない読者にも、舞台の熱と怖さを感じさせます。 きらびやかな世界に見えても、そこには日々の鍛錬、人気商売の残酷さ、芸を継ぐ者と継げない者の痛みがあります。 昭和から時代が動いていく空気も濃く、ひとりの役者の成長を通して、日本の芸能と社会の変化まで見えてくる作品です。
『国宝 上 青春篇』は、長い人生のまだ前半を描く巻ですが、すでに大河小説としての手応えがあります。 血ではなく芸によって何者かになろうとする喜久雄の歩みは、華やかであるほど苦しく、苦しいほどまぶしく映ります。 ひとつの道に取りつかれた人間の美しさと危うさを、じっくり味わいたい人に向いています。
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