店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 歴史の重さとSF的な発想が交差する長編にじっくり入りたい時
- 刺さるポイント
- 1970年代カンボジアの苛烈な時代を背景に、少女と少年の運命がゲームのような不条理へ巻き込まれていく
- 向いている人
- 歴史小説、群像劇、思考実験としてのSFをまとめて味わいたい人
Reading Notes
読みどころメモ
今日は、小川哲さんの『ゲームの王国 上』をご紹介します。
本作は、カンボジアの近現代史を背景に、暴力と思想、偶然と運命が絡み合っていく長編小説の上巻です。物語の中心にいるのは、後にポル・ポトと呼ばれる男の隠し子として生まれた少女ソリヤと、貧しい村で天才的な感覚を持って育つ少年ムイタックです。二人はそれぞれの場所で、世界が壊れていく音を聞きながら成長し、やがて同じ時代の大きな渦へ引き寄せられていきます。
上巻で強く印象に残るのは、歴史の出来事が単なる背景として置かれていないことです。革命、恐怖政治、秘密警察、強制労働といった言葉で整理できるものの中に、生活していた人間の身体感覚や、判断の余地を奪われていく怖さが描かれます。誰かが作ったルールが、いつの間にか人の命を左右するゲームの盤面になってしまう。その構図が、タイトルの重さを少しずつ明らかにしていきます。
小川哲作品らしい知的な読み味はありますが、物語は理屈だけで進みません。ソリヤとムイタックの存在には、理解しきれない世界をどう生き延びるのかという切実さがあります。歴史の残酷さを見つめながらも、そこに奇妙なユーモアや神話めいた感覚が差し込まれるため、読み味は単純な戦争小説とは異なります。現実と寓話、記録と幻視の境目が揺れ続けるところに、本作の独特の吸引力があります。
上巻は、二人の人生がどのように形づくられ、どんな傷と欲望を抱えることになるのかを描く導入部です。読み終えるころには、下巻でこの物語が政治、記憶、ゲーム、そして未来の設計へどうつながるのかが気になってくるはずです。歴史の不条理を、壮大なSFとして読み直したい人におすすめの一冊です。
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