店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 家族の中で当たり前だと思っていた役割や正しさを見直したい時
- 刺さるポイント
- 完璧にふるまう女性の視点から、家族それぞれの秘密と歪みが浮かび上がる
- 向いている人
- 人間関係の息苦しさや、正しさの危うさをじっくり読みたい人
Reading Notes
読みどころメモ
今日は、 飛鳥井千砂さんの家族小説、 『UNTITLED』についてお話しします。
主人公の桃子は、三十一歳で実家暮らしの女性です。仕事も生活もきちんと整え、自分が決めたルールから外れないように生きています。家族にも会社の人にも隙を見せず、失敗やだらしなさを嫌い、自分だけは冷静に物事を判断できていると思っている。けれど、その完璧さの裏側には、彼女自身が誰にも触れられたくない秘密があります。
物語が動き出すきっかけは、長く距離を置いていた弟からの連絡です。桃子にとって弟は、昔から面倒を起こす存在であり、家族の中の厄介な問題そのものでした。ところが、彼の帰省をきっかけに、父や母、弟、そして桃子自身の姿が少しずつ違って見え始めます。自分が正しいと思っていたものさしは、本当に誰にとっても正しいのか。人を裁く目は、いつの間にか自分自身にも向いていくのではないか。そんな問いが、静かに積み重なっていきます。
この作品の読みどころは、家族をあたたかい避難所としてだけ描かないところです。近い関係だからこそ許せないことがあり、見て見ぬふりをしてきた弱さがあり、相手を思う気持ちの中にも支配や甘えが混ざります。桃子の視点はときに窮屈で、読んでいて息苦しくなる場面もあります。けれど、その窮屈さこそが、誰かを理解する前に自分の正しさを守ろうとしてしまう人間の姿を映しています。
タイトルの「UNTITLED」は、まだ名前を与えられていない自分自身のようにも響きます。娘、姉、会社員、恋人。いくつもの役割をこなしてきた桃子が、そのどれでもない自分をどう受け止めるのか。家族の秘密を暴く物語でありながら、最後に残るのは、他人を許すことと、自分の弱さを認めることの難しさです。
『UNTITLED』は、派手な事件ではなく、家庭の中にある小さな違和感から人の本質へ踏み込んでいく一冊です。家族小説のやさしさだけでなく、痛みや居心地の悪さまで味わいたい人におすすめです。
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