店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 危うい関係や、夏の熱気を帯びた初期作品を読みたい時
- 刺さるポイント
- 未完の物語をめぐる死と記憶が、若者たちの複雑な結びつきを照らす
- 向いている人
- 心理小説、喪失の物語、説明しきれない惹かれ合いを描く作品が好きな人
Reading Notes
読みどころメモ
音声レビューの要点
今日は、吉本ばななさんの『N・P』をご紹介します。
物語の中心にあるのは、アメリカで暮らしていた作家、高瀬皿男が残した短篇集「N・P」です。九十七篇からなるその本には、未収録の九十八篇目が存在するとされます。その翻訳に関わった人々は、なぜか死の影に引き寄せられていきます。主人公の風美も、かつて恋人をその本にまつわる出来事で失っています。
数年後、風美は高瀬皿男の子どもたちと関わるようになります。咲、乙彦、そして強烈な存在感を持つ翠。彼らとの出会いによって、風美は亡くなった恋人の記憶、未完の物語、家族の秘密、どうにも割り切れない愛情の中へ踏み込んでいきます。作品にはタブーに近い関係や、自分でも制御しきれない引力が描かれますが、その重さは夏の光の中でどこか夢のように語られます。
この小説の魅力は、筋を追うことだけではつかみきれません。人物たちの会話、部屋の空気、暑さ、海辺の気配、ふいに現れる寂しさが積み重なって、風美が過ごした奇妙な時間の輪郭を作っていきます。読者の受け止め方も分かれやすい作品ですが、危うい人物たちに惹かれてしまう感覚や、喪失のあとに残るきらめきを強く記憶する人が多い一冊です。
『N・P』は、明るく分かりやすい救いをくれる物語ではありません。けれど、死に近い場所を見つめながら、それでも生きる側へ踏みとどまろうとする力があります。初期の吉本ばななさんらしい、危うさと透明感を味わいたい人に向いた作品です。
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