店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 引きこもりや孤立をめぐる事件を、社会派ミステリーとして考えたい時
- 刺さるポイント
- 一人の殺人犯の過去をたどるほど、氷河期世代や8050問題の痛みが見えてくる
- 向いている人
- 犯罪の背景にある生活の行き詰まりや、社会の責任まで読み込みたい人
Reading Notes
読みどころメモ
今日は、葉真中顕さんの社会派ミステリー『鼓動』をご紹介します。
物語は、ホームレスの老女が殺され、遺体に火をつけられるという痛ましい事件から始まります。逮捕された草鹿秀郎は、長く家にこもって生きてきた男でした。なぜ彼はその場所へ行き、なぜ人を殺すところまで追い込まれたのか。捜査と回想を通して、彼の人生に積み重なっていたものが少しずつ見えてきます。
本作が扱うのは、単独の凶悪事件だけではありません。就職氷河期、長期の引きこもり、親の老い、家の中で時間だけが過ぎていく閉塞感。草鹿の人生は、誰か一人の弱さで片づけられるものではなく、時代の歪みや家族の限界とも結びついています。読み進めるほど、事件の背景にある沈黙の長さが重く響きます。
タイトルの『鼓動』は、生きていることそのものを思わせます。けれど作中で聞こえてくる鼓動は、力強い希望だけではありません。焦り、怒り、恐怖、諦め。社会から外れてしまった人の内側で、消えそうで消えない感情が鳴っているような作品です。
葉真中顕さんらしく、ミステリーとしての推進力もあります。事件の輪郭を追ううちに、加害者、被害者、家族、社会のどこに責任があるのかが簡単には決められなくなっていきます。罪は罪として存在する。けれど、その罪が生まれるまでの時間を見てしまったあとでは、ただ断罪して終わることができません。
『鼓動』は、現代社会の孤立を真正面から描いた重い一冊です。読みやすい逃避の物語ではありませんが、今の日本で起きている見えにくい苦しさを、犯罪小説の形で考えたい人に向いています。
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