店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 母性や家族の形を、サスペンスの緊張感と一緒に考えたい時
- 刺さるポイント
- 誘拐した女と誘拐された娘の時間を、逃亡と成長の二つの視点で描く
- 向いている人
- 善悪だけでは割り切れない人間関係をじっくり読みたい人
Reading Notes
読みどころメモ
音声レビューの要点
今日は、角田光代さんの『八日目の蝉』をご紹介します。
物語は、不倫相手の赤ん坊を連れ去ってしまった女性、希和子の逃亡から始まります。彼女はその子を薫と名づけ、東京を離れ、身を隠しながら各地を移っていきます。してはいけないことから始まった関係でありながら、日々を重ねるほど、二人の間には母と子のような時間が生まれていきます。
この作品が強く揺さぶるのは、出来事を単純な善悪だけで整理させてくれないところです。希和子の行動は明らかに罪ですが、逃亡生活の中で見せる愛情は偽物とも言い切れません。一方で、連れ去られた子どもが成長したあとに背負う喪失や違和感も、決して軽く扱われません。愛された記憶が傷にもなり、傷ついた過去が自分を形づくる一部にもなる。その矛盾が、物語全体を深くしています。
前半では、希和子と幼い薫の緊張感ある逃亡が描かれます。後半では、成長した薫が自分の過去と向き合っていきます。二つの時間が重なることで、読者は「本当の母とは何か」「家族とは血のつながりだけで決まるのか」という問いを避けられなくなります。追われる恐怖と、守りたいという切実さが同時に迫ってくるため、ページをめくる手が止まりにくい作品です。
『八日目の蝉』は、サスペンスとしての緊張感を持ちながら、母性、喪失、再生を描いた長編です。結末に向かうほど、罪の重さと愛情の記憶が複雑に絡み合い、読後には静かな余韻が残ります。家族の形について、いつもより深く考えたい人にすすめたい一冊です。
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