店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 日常のすぐ隣にある小さな嘘や悪意を、連作ミステリーとして読みたい時
- 刺さるポイント
- 定年退職した元刑事が、身近な相談や事件の奥にある見落とされた真相をたぐり寄せる
- 向いている人
- 社会の変化、人間関係の歪み、後味の鋭い短編ミステリーが好きな人
Reading Notes
読みどころメモ
今日は、芦沢央(あしざわよう)さんの連作ミステリー『嘘と隣人』をご紹介します。
物語の中心にいるのは、刑事を定年退職した平良正太郎です。長く事件と向き合ってきた彼は、いまは静かな日々を送っているはずでした。けれど、近所の人から持ち込まれる相談、過去に関わった事件の記憶、家族や隣人のささいな違和感が、平穏な生活の中にじわりと入り込んできます。現役の刑事ではない正太郎には捜査権限がありません。それでも、長年培ってきた観察眼は、人の言葉のずれや沈黙の奥にあるものを見逃しません。
本作で描かれる事件は、遠い世界の特別な犯罪ではありません。元パートナーとの関係、職場や家庭での立場の違い、差別や思い込み、SNSでの攻撃など、現代の暮らしの中で誰もが触れうる問題が背景にあります。大きな悪意だけでなく、保身のための嘘、正しさを装った攻撃、自分だけは例外だと思いたい弱さが、思いがけないところで人を傷つけていきます。
正太郎が見つめるのは、犯人を鮮やかに追い詰める快感だけではありません。時代が変われば、同じ出来事の見え方も変わります。かつては見過ごされた痛み、別の角度から見れば違う意味を帯びる証言、被害者と加害者という言葉だけでは整理しきれない感情が浮かび上がります。
『嘘と隣人』は、身近な人間関係に潜む不穏さを丁寧にすくい上げる一冊です。小さな嘘がなぜ重く響くのか、隣にいる人のことを本当に知っていると言えるのか。読み終えたあと、日常の会話や沈黙の見え方が少し変わるような、静かで鋭い余韻が残ります。
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