店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 眠ることでしか耐えられない寂しさや、夜の底にある感情を見つめたい時
- 刺さるポイント
- 恋愛と喪失に揺れる女性たちを、眠りと夜の感覚を通して描く三つの中篇
- 向いている人
- 静かな恋愛小説、喪失の物語、夢とうつつのあわいを味わいたい人
Reading Notes
読みどころメモ
音声レビューの要点
今日は、吉本ばななさんの『白河夜船』をご紹介します。
この本には、眠りや夜の気配をまとった三つの中篇が収められています。表題作では、寺子という女性が、植物状態の妻を持つ恋人との関係を続けながら、親友の死を抱えて暮らしています。彼女はひとりでいる時間に、深く、長く眠るようになっていきます。眠りは逃避であり、回復でもあり、現実から切り離されていく怖さでもあります。
作品全体に流れているのは、誰かを失ったあと、心がすぐには昼の世界へ戻れないという感覚です。悲しみは説明しやすい形では現れません。眠気になったり、夜の静けさになったり、恋人との関係の不安になったりします。吉本ばななさんは、そのつかみにくい心の動きを、夢とうつつの間を漂うような文章で描いていきます。
寺子の恋は、幸福だけでできているわけではありません。相手には戻る場所があり、自分の寂しさをどこへ置けばいいのか分からない。けれど、その関係がただ間違っていると言い切れないほど、そこには切実な温度があります。読んでいると、恋愛の甘さよりも、孤独どうしが暗い場所で寄り添う感覚が強く残ります。
『白河夜船』は、派手な展開で読ませる作品ではありません。眠り、喪失、恋、記憶といったものが、夜の水面のように静かに揺れ続けます。苦しい時間の中にも、誰かを思うことでかろうじて生きている瞬間がある。そんな繊細な感情に耳を澄ませたい人に向いた一冊です。
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