店頭POP
今の気分に合う一冊かも
気分、読みどころ、向いている読者を店頭POPのようにまとめました。
- こんな時に
- 昔の記憶や人間関係のズレが、静かに怖くなる短編を読みたい時
- 刺さるポイント
- 美しい思い出として保存された過去の裏側が、再会や会話によって別の顔を見せる
- 向いている人
- 日常会話の違和感から心理の怖さが立ち上がる物語が好きな人
Reading Notes
読みどころメモ
音声レビューの要点
今日は、 辻村深月さんの短編集、 『噛みあわない会話と、ある過去について』 についてお話しします。
この作品は、過去の記憶をめぐる違和感を描いた短編集です。タイトルの通り、物語の中では会話が少しずつ噛みあいません。片方にとっては大切な思い出だった出来事が、もう片方にとっては傷だったり、忘れたい記憶だったりする。そのズレが表に出た時、懐かしい再会や何気ない会話は、静かな緊張を帯びていきます。
登場人物たちは、派手な事件に巻き込まれるわけではありません。けれど、小学校時代の友人、親子、先生と生徒、身近な誰かとの関係の中で、ずっと言葉にされなかった感情が浮かび上がります。自分では美化していた過去、自分の都合よく覚えていた出来事、相手の痛みに気づかなかった時間。そうしたものが、現在の会話の中で不意に姿を現します。
この本の怖さは、幽霊や怪物の怖さではありません。相手と同じ出来事を共有していたはずなのに、見えていた景色がまったく違っていたとわかる怖さです。悪意があったのか、無自覚だったのか、ただ弱かっただけなのか。はっきり線を引けないまま、人間関係の奥にある不穏さが読者の心に残ります。
短編ごとに切り口は違いますが、どの物語にも、言葉にしないまま積もった過去が現在を揺らす感覚があります。人の記憶は、自分を守るために形を変えることがある。そんな当たり前のことが、これほど怖く、切実に響くのだと感じさせる一冊です。
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